総義歯で噛めるようになる。義歯の方が健口になる。その2
総入れ歯作りの2回目の来院では、閉口機能印象と噛み合わせ採得(ナソメーター)を同時に取ります。
第1の課題は『閉口機能印象』です。
無圧印象では話したり、飲み込んだりする動きをした時に、入れ歯が浮き上がってしまいます。
なので、機能をした状態でどう入れ歯が動くのかを入れ歯のピンクの部分に反映させなければなりません。
それが機能印象です。
上だけ、下だけと型取りをするのが普通ですが、それだと本当の顎の動きや噛む動きとはなりません。
上の歯がないのと不自然な動きとなり、片方の靴だけでは普段通り歩けないのと同じです。
最終的に上下型取りを並行して進めないと、普段の動きを印字することは難しいと考えます。
と言っても、同時閉口印象では過不足が生じやすいです。
そこで、上下に「ナソメーター」という型取り専用機を使い、入れ歯があたかも口に入ってる状態に近づけ、過不足を見ながら数回に分けて型取りを行います。
過不足とは、「舌や頬粘膜の動きを若干加圧しながら、硬めの緑の素材で型取りを行うこと」です。
その後、柔らかい茶色の素材で、無圧で粘膜面=入れ歯の土手の方を取ることです。
硬めの素材は、粘膜に圧をかけられます。
押せば形を変える粘膜や舌は、筋肉の動きを見ています。
柔らかめの素材は、骨に裏打ちされた動かない粘膜面(入れ歯の土手)を型取ります。
押すと変化する粘膜、変化しない粘膜とその境界を触れば分かるので、その性質を理解した方法で型取りしていきます。
この写真は、口を開けた時と閉めた時の様子です。
口の開閉時に入れ歯が外れるという話を聞いたことありませんか?
それは、下顎が開閉時に入れ歯にあたって外れたり、舌の動きで入れ歯を制御できていないからです。
それを加味していきます。
顎の前後左右の動きも忘れてはいけません。
他には、舌の前後や左右の動き、指吸い、「あー、いー」と唇の動きをしてもらいます。
舌、唇、顎骨、頬粘膜の隙間に入れ歯は存在します。
その動きの中立地帯に位置させることで、それぞれの筋肉、粘膜面に挟まれて安定します。
第2の課題『ナソメーターを使用したゴシックアーチ』です。
これは上下の顎の垂直的、水平的な位置関係を印字、確認する装置です。
上下入れ歯の位置決定と全体的な高さの調整をします。
顎を前後左右に動かすと、矢印のように印字されます。
矢印の先端が中心となります。
これは、本人が顎を動かして印字されるものです。
歯科医師が誘導したら偶然的に「はい噛んでください」と一発勝負で決めたものでありません。
僕も使っていました「こんなもんかな??」と。
「こんなもん」で入れ歯が作れるわけがないと今は確信しています。
何度か顎を動かしてもらい、表示されたものがこの矢印なので再現性が高いのが特徴です。
垂直的には、ネジを捻ると真ん中の芯が上下します。
その芯で、0.5mm単位で垂直的な高さの噛みやすさを患者さんと一緒に探します。
「はい噛んでください」と歯科医師が誘導したり、「こんなもんですね」と決めつけたりするものではありません。
この水平的、垂直的な噛み合わせを順番に決めていく作業が今日の第2の課題です。
水平的、垂直的な噛み合わせを患者さんの実際の感覚も加味しながら、一緒に作り上げていきます。
それが「ナソメーター」を使用した入れ歯作りの真髄です。
噛む位置を1点に固定し、カチカチ噛んでもらい、その場で噛めそうか実際に体験してもらいます。
その感覚で「いける!」と患者さんと歯科医師が共に確信が持てた時に次のステップに進みます。
歯科医師の押し付けでない入れ歯作りこそ、新しい形だと言えます。
全ては、未来の入れ歯作りのために・・・
下田孝義
医療法人社団徹心会ハートフル歯科