コロナ禍の最中、同級生が事故に遭い、意識が戻らないまま長い入院生活を経て亡くなった。

突然届いた訃報に言葉を失ったことを、今でもよく覚えている。

開業して間もない頃の彼からは、いつも元気なLINEが届いていた。

私は折に触れ「どうよ〜」と声をかけ、スタッフ確保や広告、開業医としての心構えなど、冗談を交えながら情報をやり取りしていた。

そんな会話が、ある日を境に途絶えた。

返事が来ない理由を、妹さんからの連絡で知った時の胸の痛みは、言葉にできない。

今回、ようやく線香を手向けに行く機会が訪れた。

年齢は52歳。あまりに早い別れだった。

遺影の前でご家族と昔話をしながら、改めて「元気でいることが、すべての前提なのだ」と強く感じた。

健康を失えば、仕事も人生も続けられない。当たり前のことだが、友の死はその重さを突きつけてきた。

翌日、熊本城へ向かった。

熊本地震から数年が経ち、主要部分は復旧していたものの、石垣には震災の爪痕がくっきりと残っていた。

しかし、その修繕工程を知って驚いた

崩れた石一つひとつを立体的に計測し、どこに戻すべきか“ジグソーパズルのように”解析する。

破損が激しい石は補修し、新しい石材と組み合わせて積み直す。

こうした作業を、今は AI の解析とクレーン作業が組み合わさって行われる という。

人間の知恵とテクノロジーの融合で、絶望的に見える作業が現実に進んでいた。

展望台からは、人工雲海に包まれる熊本城が見渡せた。

完全修復、完全観光化に近い姿で、平日にも関わらず多くの外国人が並んでいた。

TSMC 進出の影響もあるのだろう。熊本は活気に満ちていた。

さらに驚いたのは、空港行きのバス停にあった 無人コンビニ だった。

無数のモニターで万引きを監視し、セルフレジで会計を行い、出口では自動改札のように商品をチェックする。

入店人数は3名まで。完全無人運営。

日本でもここまで来たのか、と思わず写真を撮った。

友を偲びながら歩いた熊本。

帰りの飛行機では、彼が笑っている姿を夢の中で見た。

開業も順調だったし、人生をしっかり歩んでいたように思う。

少し早かったけれど、きっと彼なりに役目を終えたのだろう。

今回の旅で、私は改めて 健康こそ最も価値のある資産だ と痛感した。

どれだけ知識を磨き、どれほど資産を築いても、元気がなければ何もできない。

大切な人を失うことで、その真理が胸の奥に深く沈んでいく。

線香を手向けられたことで、ようやく一区切りがついたように感じている。

彼の分まで、僕は今日も前に進む

下田孝義

医療法人社団徹心会ハートフル歯科