先日、インプラント手術を予定していた患者さんの術前の問診と血圧のチェックを行っていました。

「当院ではインプラントオペの前に、必ず血圧測定を行っています。」

その日もいつも通り血圧を測定したところ、見慣れないマークが表示されました。

よく見ると、不整脈を示すマークです。

私自身も見たことがない表示だったため、その場で写真を撮って確認しました。

患者さんは腎機能に問題を抱えている方で、全身的な負担も少なくありません。

普段、インプラント治療を希望される患者さんは比較的健康な方が多く、血圧が少し高い程度のことはありますが、不整脈の表示が出たのは初めてでした。

最近の血圧計は優秀で、単に血圧を測るだけでなく、脈の乱れまで検知してくれます。

もちろん機械の表示だけで病気が確定するわけではありません。

しかし、

「いつもと違いは、ませんか?」

「最近の体調は、どうですか?」

という何気ない会話を問診は行っています。

問診でも、「数回心臓が痛くなったことがある。」と言っていました。

問診と合わせて、インプラント手術は、中止しました。

患者さんには、

「今日はインプラント手術はやりません。」

「まずは内科で心臓の状態を確認してください。」

「落ち着いたら、インプラントはいつでもできます。」

「その時は必要に応じてセデーション(静脈内鎮静法)も併用しながら、安全に治療を進めましょう。」

とお話しし、その足で内科を受診していただきました。

私は普段、

「噛めることは生きること」

と患者さんにお伝えしています。

しっかり噛めることは、健康寿命にも人生の楽しみにも大きく関わります。

しかし今回、改めて感じたことがあります。

それは、

「生きることがあってこそ、噛めることに意味がある」

ということです。

そもそもインプラント治療は、生命を救う治療ではありません。

失った歯を回復し、

美味しく食事をしたい。

好きなものを噛みたい。

笑顔に自信を持ちたい。

そんな人生の質を向上させるための治療です。

言い換えれば、健康な方がさらに豊かな人生を送るための治療とも言えます。

だからこそ、

心臓や腎臓など全身の健康に問題があるなら、まずそちらを優先すべきです。

インプラントは延期できます。

しかし、心臓の病気は延期できません。

もし術中に重大な循環器系のトラブルが起これば、生命に関わります。

私たち歯科医師は歯だけを見ているわけではありません。

口の中だけではなく、その方の健康全体を見ながら治療を行っています。

今回の出来事を通じて、改めて医療の原点を考えさせられました。

噛めることは大切です。

しかし、その前に健康があり、生命があります。

まずはしっかり検査を受けていただき、安心して治療を受けられる状態になってから、改めてインプラント治療を進めていきたいと思います。

焦らず、安全第一で。

それが私たちの考える歯科医療です。

噛めることは生きること。

そして、生きていなければ、何も出来ない。

生命より大切なものはない。

下田孝義

医療法人社団徹心会ハートフル歯科